『人は話し方が9割』(すばる舎)/永松茂久さんに聞く

緊急事態にこそ求められたコミュニケーション力!
本と人との出会いで辿りついた新たなステージ

 

 

 2020年、各書店の年間ベストセラー・ビジネス書部門1位などを達成し、現在60万部を突破した『人は話し方が9割』。今でも売れ行きは伸び続け、勢いはとどまらない。著者の永松茂久さんに、出版の経緯と本書に込められた思い、今後の展望などについて話を聞いた。(聞き手 野中琢規)

 

 

出版に縁のあった人生

 

25歳で3坪のたこ焼き屋を起業した後、年間1万人が全国から訪れるほどの人気店「陽なた家」などの飲食店事業で成功した永松氏だが、その人生の中で「本」と「本屋」とはいくつもの接点があったという。

 

 実家が大分県中津市の商店街の中で、近所のたこ焼き屋をよく手伝っていたことが、「たこ焼き屋」で事業を興したきっかけでした。一方で、家の目の前には書店があり、書店に通うのが日課でした。起業する前の、最初の就職先も実は出版社で、そこで取材などをする中で、「オタフクソース」や「築地銀だこ」のトップの方々とのつながりができて、起業前の経験ができたんです。
 独立したたこ焼き屋自体はそれほど上手くいかなかったのですが、その後に始めた「陽なた家」が人気店となり、そこでお客さんとして来ていただいた出版社の方に執筆を持ちかけられたことが、出版のきっかけでしたね。

 

独自の人材育成が話題を呼び、多くの著書を出していく中で、自前の出版スタジオも立ち上げた。

 

 本当に出版が好きで、やっているうちにどんどん面白くなってきたので出版スタジオを作り、そこで自分だけでなく他の著者の本作りなども請け負っていました。デザインができるスタッフが飲食店と兼業し、夜は飲食店、閉店後の夜中から出版スタジオといった働き方もしていました。
 その後、福岡に出店したのですが、段々と様々な支障を感じて、最終的に「出版は東京の地場産業である」との結論に至りました。そこで、“メッカ”に行った方が早いと思い、2017年に東京へ進出しました。
 起業当初の目標が「40歳までにたこ焼き屋を50店舗作る」ことだったのが、いつの間にか出版に変わっているのが、人生のわからないところですよね。しかし、この「面白い方向に動く」という信条が、これからの時代にマッチしていくのではないでしょうか。ここからは「変われる人間しか勝てない」時代になっていくと思います。

 

いま求められるコミュニケーションの重要性

 

出版の魅力は毎回新しいものが出せることだと話す永松氏。今回著書で最も売り上げた『人は話し方が9割』の制作経緯とは。

 

 長年付き合いがある大輔くん(すばる舎営業部営業課リーダー・原口大輔氏)がずっと、7年近くも「話し方」というテーマを推し続けていて、僕も、すばる舎の担当編集である上江洲さんも、それに巻き込まれたような形です(笑)。執筆はスムーズに進み、1カ月ほどで書き上げることができました。
 僕の守備範囲であるビジネス書を出せば、今までと同じくらいは安定的に棚に入れてくれるようにはなってこれた気はしています。しかし今回はそうではなく、今までファン層が少なかった商業施設の中に入っている未来屋書店さんなどで売れる本にしたいと話をしていたんです。パート帰りの主婦の方や、土日に子連れで来るお母さんがなんとなく買っていくような、その層を狙いたかった。これは僕の中でも挑戦でした。

 

従来のビジネス書から作り方を一変し、女性でも手に取りやすい内容とデザインにこだわった。

 

 「話し方とは何か」という考え方を中心に、老若男女問わず幅広い層の人の生活に関わりがある内容にして、ビジネスマン向けのスキル的なものはできる限り省き、文体も日常会話に特化しました。話し方は、突き詰めれば「心の在り方」で決まると言えます。小さい子ども相手に話すときに緊張する人はいないでしょう。しかし、会社の人や、初対面の人との“コミュニケーション”になると突然難しくなります。
 本は、デザインや読みやすさが大事だと思います。昨今は余白を生かした本が売れています。本を買いに来た人は、手に取り、パッと開いた時点で読みにくいと思ったら本を閉じ棚に返してしまう傾向にあります。そういう読者さんのニーズに合わせた読みやすさは大事です。そして読みやすさだけでなく、その大前提を踏まえた上で、内容も深い必要があります。読んで納得する感覚はほしい。説明はできればワンセンテンスで本質を突く、というのが読者さんの好みです。そう考えると、現代は「ひと言で人を動かせる力」が問われるんだと言えると思います。ですから、今まで以上に装幀、タイトル、前書き、目次を重視しました。

 

▲余白やイラストで読みやすくデザイン
 (イラスト・図:久保久男/朝日メディアインターナショナル)

 

制作と同様、その売れ行きも、初めから今までと違う動きをしていたという。

 

 刊行当初から全国でじわーっと売れ、2週目に『Newsモーニングサテライト』(テレビ東京系。大阪ではテレビ大阪で放送)の「ビジネス書 最新ランキング」コーナーで取り上げていただいたことで、この本の「運の強さ」を感じました。
 未来屋書店さんで明らかに動いてきたのは2019年の年末、刊行から4カ月後くらいです。もともと主婦層を狙っていましたが、実際に未来屋書店さんで売れたのは嬉しかったですね。「10万部を目指そう」と話していたのが半年ほどで実現してしまい驚きました。

 

そして刊行から7カ月が経った4月に、1回目の緊急事態宣言が発令される。

 

 せっかく勢いが出たところで残念に思っていましたが、どこで買ってくれてるんだろうと不思議に思うくらい、売れ行きは逆に上がっていきました。コロナ禍による巣ごもりでオンライン化が進み、読者の方々が、逆に人とのコミュニケーションの大事さを感じられたのかもしれません。
 さらに勢いがついたのは4月末、JR東日本さんに交通広告を出したのがきっかけでした。読者さんがFacebookやインスタグラム、TwitterなどのSNSでアップしてくれて、口コミに乗ることもできたんだろうなと分析しています。
 これまで基本的に男性向けに本を書いていましたが、本書は紀伊國屋書店さんのPubLineによると4対6で女性の読者さんが多い。考えてみれば男性は自分が読んだ本が「めっちゃよかったよ」とはあまり言わないですよね。これに対して女性はSNSにアップしたり人に話してくれる傾向があります。だから、本書も「広告×女性の口コミ」のおかげで広がっていったんだと実感しています。コアの読者層は40代女性で、ここが本書が売れていった原動力になったと考えています。

 

本好きさんたちと目指す新たな目標

 

新たなファン層に広がっていっている同書。執筆業開始から10年の節目に大台へ乗った永松氏の次の目標は。

 

 この本で、著者はただ書くだけではなく、売れることも同時に考える必要があると学びました。売れたらたくさんの人が喜んでくれることを目の当たりにしたんで、売れることをプロとして考えなきゃいけないと感じたんです。
 おかげさまで今年1月の日販さんの月間ベストセラーでは総合3位。発売から1年5カ月で実売の最高値を記録することができました。すばる舎さんが「去年の12月より今年1月の方が売れている。まだてっぺんが見えていない。1月は2度目の緊急事態宣言が出た時なので、緊急事態宣言が解除され全国的に人出が増えたら売れるニーズはまだまだある」と言ってくれています。
 2021年中に100万部を目指しています。「(最終的には)シリーズ合わせて300万部は行きたいよね」とみんなで盛り上がっています。

 

さらに今後は出版業界全体に関わる取り組みも行っていくという。


 今夏に発表予定ですが、「Dear Books」という名前で著者、版元さん、書店さん、未来の著者という本好きさんたちの出版支援スタジオを作ろうと思っています。全ての本を愛する人たちへという意味を込めて名付けました。ここから新しく出版に携わる人たちの支援を始めたいと思っています。
 著者にとって書店さんは大事な場所です。書店さんがないと本が売れない。書店さんを面白くしたい、楽しくしたいです。書店さんがもっと面白くなるための提案には、著者としても積極的に関わっていきたいと思っています。ここからもどうぞよろしくお願いいたします。

 


 

四六判/240㌻/本体1400円

 

 

永松 茂久(ながまつ しげひさ)

 

 株式会社人財育成JAPAN代表取締役。永松塾主宰。知覧「ホタル館 富屋食堂」特任館長。大分県中津市生まれ。経営、講演だけではなく、執筆、人材育成、出版スタジオ主宰、イベント主催、映像編集、経営コンサルティング、ブランディングプロデュース、自身のセオリーを伝える『永松塾』の主宰など、数々の事業を展開する実業家。著書に『在り方 自分の軸を持って生きるということ』(サンマーク出版)、『30代を無駄に生きるな』『20代を無難に生きるな』(きずな出版)等があり、累計発行部数は190万部を突破している。