『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)/滝沢カレンさんに聞く

第8回料理レシピ本大賞受賞!!
料理の楽しみが生まれ変わる“食材たちの物語”

 

 

 「第8回 料理レシピ本大賞 2021」料理部門の栄えある大賞作品に選ばれた『カレンの台所』。ファッションモデル、タレントの滝沢カレンさんによる初の料理本は、新感覚のレシピとして話題となり、料理レシピ本に投票する書店員からも多くの支持を集めた。本書の出版を通じてより多くのことを知ることができたというカレンさんに、本書に込めた想いや、料理の物語の楽しみ方などについて聞いた。(聞き手 野中琢規)

 

 

熱をお返しするために出版へ

 

本書の元となったのは、カレンさんが自身のインスタグラムに投稿していた料理の写真と添えられた物語だったが、実は投稿のきっかけは料理ではなく“食器”だったという。

 

 もともと料理が好きで、さらに一時期食器が好きになって、素敵な食器を多くの人に見てもらいたくなり、そこでインスタに載せてみようかなと思ったのが最初です。
 その時に、私は文を書くことも好きなので、みんなが知っている唐揚げの作り方を書くよりも、自分が台所に立った時の物語を書いてみようかな、と思いつきました。
 その文章が少しずつ反響をいただいて、複数の出版社さんから書籍化のお声をかけてもらうようになりましたが、最初は本当にこれを本にする気持ちはなかったんです。

 

インスタで見てもらう以上のことは全く考えていなかったというカレンさん。その気持ちを動かしたのが、サンクチュアリ出版の編集者である大川美帆さんだった。

 

 子供となる本を出すぞという気持ちに、心からならなければ本は出さないと思っていたので、出版社さんからのお話は恐れ多くも断っていました。
 でも、最後にお話しさせてもらった大川さんの熱量がすごくって。ドキドキしながらも、自分の気持ちから出てくる自分の言葉で話してくださっているのが伝わってきて、私自身もドキドキしながら、楽しく打ち合わせさせてもらいました。
 そして、2度目の打ち合わせの時にも、大川さんの誠意と熱意が伝わって、2019年の末に、心に決着がついて出版することを決めました。ただその時は、これから出会う読者さんのことはまだ想像できていなくて、まず大川さんに、もらった熱を返したい、良い本をプレゼントしたいという気持ちが始まりでした。

 

 

もう一度やりたい制作期間

 

本を書くなら絶対にそこだけに集中する時間を作りたい、と多忙なスケジュールを調整し、1週間料理だけに集中し、原稿を書き上げた。

 

 制作期間はバタバタしながらも、とても楽しい時間でした。当時(2020年1月)はまだ、日本ではコロナも流行前だったので、大勢のスタッフさんと一緒にワイワイ、試食したりしながら作っていて。自分以外の人に食べてもらうことは滅多にないので、美味しいと言ってもらえることがとても嬉しかったです。
 普段は、料理をしていても何の物語が生まれない日もあるので、1週間で全部書けるかなという不安もありました。
 私は作ったその日に、その料理の物語を書かないと、翌日に書いてもそれは明日の自分の物語になってしまうので、前日に撮った写真と合わなくなってしまう。でも、実際はいつも以上に料理に集中していたからか、物語もざーっと書けて、大変よりもとにかく楽しかったです。
 制作中に「料理が好きだなぁ」という思いをさらに感じることもできて、『カレンの台所』を作る道のりは、もう一度やりたいくらいです。

 

プロカメラマンが撮影した写真や、よしもとななさんが手がけたイラストも、カレンさんの物語を引き立たせている。

 

 この本の、「物語→イラスト→完成した料理の写真」の流れもこだわりです。私の頭の中ではいつも、料理の物語は絵と文字が出てくる絵本のような世界。それを再現したい本の中に、リアルな調理過程の写真を入れてしまうと、一気に物語から醒めてしまうと思ったので、そこは絶対に絵にしたかったんです。
 そして、完成写真として一番美しい料理の姿を載せることで、ワクワクして、どうなるんだろうと思ったら、わ~現実に戻った!という気持ちになるように。夢から醒めて、また夢に入ってはまた醒めて、という流れの本を作りたかったんです。

 

思いを込めて作り上げた本書。発売は1回目の緊急事態宣言期間と重なってしまうが、だからこそ通じた思いもあったという。

 

 とにかくみなさんのご迷惑にならないように、本屋に行けるようになってから読んでもらえればいいという思いでした。
 でも、あんな状態だったからこそ手に取ってもらえる人もいて、「この本のおかげで自粛生活が辛くなかったです」という言葉がとても胸に響きました。
 本が旅してくれたおかげで、たくさんの感想や反響をいただいて、本当に出してよかった、という思いが日に日に増えていきました。

 

 

みんなで取った大賞

 

家族みんなが本屋好きの家庭に育ったカレンさん。小さな頃から本屋に行くのが楽しいひとときだったという。

 

 静かで、自分の居場所があって、そこにはたくさんの知識や、まだ知らない事実が隠されてあったりと、本当に宝箱のような空間です。
 小説を読むのも大好きですが、読み切るのが大変。1行読んだらすぐに妄想が膨らんじゃうので、1冊読むのに3年かかるくらい。だけど好きだから何冊も買っちゃっては、全部途中で物語を勝手に思い浮かべて終わらせる、というのが私のやり口になっちゃってます。

 

本屋が大好きだったからこそ、書店員へ思いを伝えたいと考え、スリップに書店員へ向けた感謝を忍ばせたり、直筆の言葉をFAXで送るなど積極的にメッセージを発信してきた。

 

 私が産んだ本を育ててくれるのは書店員さんなので、まさに第2の親のような存在です。この本が世の中の多くの場所に旅立てたのは、コロナ禍でも店頭に立ってくれた方をはじめ、多くの書店員さんが本を届けてくれたから。
 本当はスリップも、一人ひとりメッセージを変えたり、直接会ってお話しさせていただきたいくらい。色んな書店さんを訪問したかったけれど、今回は限られた店舗だけになりましたが、挨拶に行った先でもすごく優しく声をかけてくださったり、お客さんのことを教えてくれたりと、本当にありがたかったです。

 

そして今回、書店員からの投票で、第8回料理レシピ本大賞の料理部門大賞を受賞。みんなで受賞した喜びを分かち合いたい、とカレンさんは語る。

 

 私じゃないことの方が当たり前だと思っていたので、受賞した時は本当にびっくりしました!
 この賞は私一人で取ったものではなく、大川さん始め、書店員さんやスタッフさん、『カレンの台所』に関わってくれた全ての人が取った大賞だと思っています。
 これからも可愛い子には旅をさせよという言葉を信じて、もっともっと旅をしてもらいたいです。この本のゴールは大賞を取ることではないですし、物語はそれぞれの台所でまだまだ続くじゃないですか。
 色んな人の台所で色んな物語が生まれて、食材たちが生きる世界のお話を気軽にできるようになったらいいなと思うので、お体には気をつけて、おうちで楽しみながら料理をして、皆様の体に食材たちが入っていってくれたら嬉しいなと思います。

 


▲スリップの裏面に載せた直筆のメッセージ

 


書店店頭のPOPや展開にも愛を感じたというカレンさん

 


 

『カレンの台所』


A5判/136㌻/定価1540円

 

 

滝沢 カレン(たきざわ かれん)

1992年東京生まれ。2008年、モデルデビュー。現在は、モデル以外にもMC、女優と幅広く活躍。主なレギュラー出演番組に『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ)。『沸騰ワード10』(日本テレビ)など。11月には出演する「土竜の唄 FINAL」の公開も控えている。