紙しばいのプロフェッショナルであることを目指すプロジェクトチーム「紙PRO」―。創業以来、紙しばいの出版を長く続けている童心社が、8年ほど前に作った部署横断の組織だ。発足以降、「紙しばいアカデミー」といった講座を定期的に開くなど、紙しばいの周知や普及、プロモーションの役割を担ってきた。そして、多くの人たちが集えないコロナ禍の今、YouTubeなどを使った動画配信にも積極的に取り組み始めている。「紙PRO」メンバーの編集部副編集長・橋口英二郎氏、販売部・宮原真理氏に話を聞いた。

「紙PRO」現メンバーの橋口氏(右)と宮原氏
紙しばいが生まれたのは1930年ごろの日本。その後、現在のように全国の幼稚園や保育所、小学校や公共図書館などで広く活用されるようになった。また、現在では日本独自の文化である「KAMISHIBAI」として、アジアやヨーロッパなど多くの国にも広がっている。
57年3月、紙しばいの出版社として童心社が創立され、翌年には「定期刊行かみしばい」の出版を始めた。それ以降、新作の紙しばいを毎月刊行し続けているのは、童心社だけだ。同社のバックナンバー1の紙しばいは、いわさきちひろさんが初めて4色の絵で出版した『お母さんの話』。それから数え、今では総タイトル数が2400を超えている。
「紙しばいのプロであるべき」
このように長く紙しばいに携わってきた童心社だが、「もっと読者と直接つながったり、家庭や学校に広げていくにはどうすればいいか。それが長年の課題だった」(橋口氏)という。そこで、前々社長の佐倉清一氏が、社内に立ち上げたのが「紙PRO」だった。その名称には、紙しばいの出版社として「社員一人ひとりが紙しばいの『プロ』であるべき」との思いが込められている。
当初は、佐倉社長のほか、編集部門1人、販売部門1人、製作・管理部門1人の4人が集まりスタート。田中正美前社長、後藤修平現社長のもとでも引き継がれ、現在は編集部1人、販売部門2人、広報部門1人の組織として、紙しばいの認知や普及、販売促進につながる戦略の立案から、企画の実施まで担っている。
「紙PRO」はこれまでも、課題解決に向けて意見を出し合い、実行に移してきた。例えば、教材として紙しばいを使用している小学校への視察や、2017年の童心社創業60周年記念事業の一環として、紙しばいの変遷などをたどる展示会や講演会も開催した。
また、「紙PRO」で長く続けているのが、保育者や図書館司書ら、子どもたちに紙しばいを届けてくれる人たちに向けた講座「紙しばいアカデミー」だ。紙しばいの魅力などをしっかりと発信できる講師や作家を招き、計5回ほどのカリキュラムを組み、2014年から毎年実施してきた。
「紙PRO」発足以前も、同社では全国津々浦々で講座を行ってきた。その実績をアップデートする形で始まった「紙しばいアカデミー」だったが、20年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大が、その継続を妨げた。

童心社YouTube公式チャンネル
そんな状況を打破するため、新たに取り組み始めたのがYouTube公式チャンネル内での紙しばいに関する動画配信だ。21年の夏から秋にかけて、紙しばいオンライン「ミニ講座」を全5回配信。誰もが、どこでもアクセスできるオンラインの特性を生かし、講座は多くの人が気軽に紙しばいに触れてもらえるような内容にした。
動画には橋口氏、宮原氏がそろって出演する。企画や準備はもちろん、カメラや編集ソフトも自前でそろえ、同社4階にある「KAMISHIBAI HALL」(東京・文京区)から配信。まさに「紙PRO手作りの動画」(橋口氏)となっている。
宮原氏は「紙しばいについて、基本的な疑問にしっかりと答えられる内容にするとともに、童心社という出版社の雰囲気も知ってもらえるよう、ていねいな作りを心がけた」と語る。そう言う通り、動画は他のYouTube番組にありがちな過剰な演出などもなく、二人のほのぼのとした掛け合いスタイルで、分かりやすく進む。
また、紙しばいの新刊が毎月届く「定期刊行紙しばい」(年間購入または各巻購入可)の22年度版の刊行スタートに合わせ、3月から紹介動画の配信もスタートしている。毎月のラインナップやこの企画ならではの魅力について、おすすめポイントを説明している。
「私たち次第でチャンスが広がる」
橋口氏は「紙しばいは書店で手に取って見られる機会もなかなかないし、新刊の情報を入手する方法も少ない。私たちの発信の仕方次第で、もっと多くの人に知ってもらえるチャンスが広がる。動画を含め、その時々にあったPR方法に取り組みたい」と考える。
「当社は絵本もたくさん出しているが、やはり紙しばいが社の根幹のひとつ」と宮原氏。「紙しばいはみんなで共有、共感しながら楽しめるのが大きな特徴。人とつながるのが困難な今だからこそ、その貴重な体験を、もっと多くの子どもたちに届けたい」との思いを、改めて強くしている。
動画はフェイスブックやインスタグラムでも配信中。今後も、動画の良さを生かしながら、新刊の紹介など地道に続けていく。また、これまでの動画配信の経験をもとに、リアルとオンラインを併用した「紙しばいアカデミー」の実施など、新たな展開も視野に入れている。【増田朋】