“専門”と“非専門”の中間狙う シリーズ「ケアをひらく」
医書といえば専門書のなかでもとりわけ高額で難解なイメージが強く、一般書店ではなかなか扱いにくい。そんな医書を出版する老舗 の医学書院が 20 年にわたって刊行を続ける「ケアをひらく」は、一般書売場や話題書コーナーにも並ぶ異色のシリーズだ。 5月中旬には 『脳が壊れた』(新潮新書)などで注目を集めた鈴木大介氏による最新刊『「脳コワさん」支援ガイド』の発売を予定している。
体裁も多様なシリーズ37タイトル
最新刊は 「脳コワさん」を支えるガイドブック
『「脳コワさん」支援ガイド』の著者・鈴木氏 は『最貧困女子』(幻冬舎新書)などの著書を 持つ硬派のルポライター。2015年、41歳で脳 梗塞に倒れ回復後も高次脳機能障害を抱え ているが、2016年にその体験を綴った『脳が 壊れた』が話題となり、その後、『脳は回復す る 高次脳機能障害からの脱出』(新潮新書)、 『されど愛しきお妻様「 大人の発達障害」の 妻と「脳が壊れた」僕の18年間』(講談社)な どを発表している。 「脳コワさん」とは、そんな著者をみて妻が 言った「あなたも脳コワ(脳が壊れた)さんじゃ ない」という一言。エスカレーターに乗れない、 人の目を見て話せない、人混みの中を歩けな い、といった鈴木氏の日常的な“困りごと”が、 実は発達障害の妻が抱える“困りごと”と共通 していることを発見。 病名や診断名を超えて、脳にトラブルを抱 えれば困りごとも似ている。そんな「脳コワさ ん」たちを支えるためのガイドブックとして書か れたのがこの本だ。

シリーズ立ち上げから担当する白石氏
書店の実用書コーナーで展開を
医学の素人だからこそ、人々の 周囲で日常的に起きている「あの おじいちゃんちょっとおかしい」と いう困りごとを先入観なしに発見 できる。また、自らの体験を的確 かつ面白い表現で正確に記述 するルポライターならではの表 現力のおかげで、多くの人が受 け入れやすい文章になった。 シリーズを立ち上げ、同書の 編集も担当する看護出版部3課の白石正明 氏は、この本を実用的な家庭医学書として展 開することを書店に薦める。 「この本は認知症、脳卒中の後遺症、うつ 病、発達障害などで困っている人たちを理解 して扱い方がわかるガイドブック。そうした人と 接する多くの人たちに役に立つ」からだ。 そして、ふと書店に立ち寄った人が目にして 親族や近所の「脳コワさん」を思い浮かべて 「そういえば」と気付くような出会いを期待す る。 「まずは書店の方がこの本を発見して並 べ、それをお客さんが発見する。書店がそん な発見の場として機能してくれるとうれしい」 と話している。
37タイトル中 10タイトルが2万部超に
同書はガイドという性格からシリーズの中で も珍しい横組み・右開きの造本。ただ、シリー ズ37タイトルには哲学や社会学、ノンフィクショ ンからフォトエッセイ、写真集、マンガ入りまで 多種多様な内容と体裁が混在する。 そんなシリーズ全体に通底するコンセプト は「専門と非専門の中間を狙う」。 「医学は専門分化して発展してきたが、
人々の困りごとを解決するためには専門性だ けではカバーしきれない領域が思いのほか大 きい。そういう部分を切り拓く」のがこのシリー ズの持ち味だ。 その結果、これまでの37タイトル中10タイト ルが2万部を超えているのをはじめ、川口有美 子『逝かない身体 ALS的日常を生きる』が第 41回大宅壮一ノンフィクション賞、熊谷晋一郎 『リハビリの夜』が第9回新潮ドキュメント賞、國 分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古 学』が第16回小林秀雄賞、今年2月刊の『居 るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚 書』が第19回大佛次郎論壇賞と紀伊國屋書 店「じんぶん大賞2020」を受賞するなど幅広 い評価を得てきた。 こうした「専門と非専門の中間」でかつてな い企画を出せるのも「専門性を過剰に尊重し なくてすむ」専門出版社としての背景がある からだと白石氏は考えている。 そういう「ケアをひらく」について、同社販 売・PR部も一般書を扱う書店からの要望にも 積極的に答えていく考えだ。
問い合わせは医学書院販売・PR部、電話 03-3817-5651

『「脳コワさん」支援ガイド』 A5 判/224 ㌻/本体2000円