【特集】「10代の君たちに贈る“生きる”本」

2019年11月1日

2017年夏にマガジンハウスが刊行した『君たちはどう生きるか』は、漫画版と小説版を合わせて、累計267万部突破を記録した。昨今の出版業界において、これほどまでにエポックメイキングな話題を提供した書籍も珍しい。同時にこの本が、「10代や若者への生き方・指針となる書籍」の市場に、光を当てたとも言えるのではないだろうか。
今回、とりあげる5点もまた、コンセプトや著者、切り口は違えども、そこには若者たちが生きていくうえで本当に大切なこと、著者が伝えたいメッセージに溢れている。





『どうしたらいいかわからない君のための人生の歩きかた図鑑』
(石井光太/日本実業出版社)



悩み多き子どもたちへ贈る「人生のガイドマップ」

日本実業出版社が6月に刊行した、石井光太氏による
『どうしたらいいかわからない君のための 人生の歩きかた図鑑』は、
いじめや不登校、さらには発達障害や虐待、
LGBTなどで悩んでいる子どもたちのための「人生のガイドマップ」だ。

 本書は「学校」「家庭」「体」のなやみなど、悩み別の章立てで、多様な悩みを抱える子どもたちに、相談先や具体的な解決方法、福祉関係者はじめ、プロ視点からのアドバイスなどをわかりやすく紹介。さらには「過酷な子ども時代」を乗り越えた先にある、「オススメの職業ガイド」も収録している。
 本書がこのようなコンセプトになった背景には、担当編集者の強い思いがあったという。編集者自身が不登校を経験しており、それでも「人生は何とかなるし、ちょっとくらい休んでも大丈夫」という思いを込め、当初は「職業図鑑」に特化した企画で石井氏に依頼。
 打ち合わせを重ねる中、「本当に悩んでいる子どもは『その日を生きる』ことが大変」、「子ども時代を無事に生き抜くための解決法を伝えたい」という両者の思いから、悩んでいる「今」を解決してくれる支援情報なども盛り込む方針になった。
 石井氏は、子どもの貧困や虐待など、多数の著作を持つノンフィクション作家。前述の編集者は、石井氏が「子どもたちは可能性のかたまりだけど、脆くて弱い生き物。だからこそ、セーフティネットにたどり着けるようにしてあげなければいけない」と話していたことを印象深く覚えているという。

□A5判/292㌻/本体1800円

  


『生き抜くチカラ』
(為末大/日本図書センター)

 ことばとイラストで伝える生きていくための50のルール

日本図書センターが刊行する「ルールブック」シリーズには、
厳しい社会を生きる子どもたちへ向けた、
ちょっとピリ辛な、人生を生き抜く50のヒントが掲載されている。

 商品の企画も手掛ける同社・高野総太代表取締役社長の、「子どもも大人たちと同じように、競争や人間関係、将来に悩むことだってある。そんなときに役立つ本を作りたい」という思いがこめられている当シリーズ。今年1月に第1弾『メシが食える大人になる! よのなかルールブック』(高濱正伸著)を刊行。7月に第2弾『ヤワな大人にならない! 生きかたルールブック』(齋藤孝著)を、そして10月に第3弾『生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば』(為末大著)を刊行している。
「いいことを言うよりも、よい行動をとる。」、「小さな悪こそ甘く見ない。」、「長所・短所は単なる『かたより』。」など、人生の先輩である著者たちのことばを、ユーモアあふれるイラストを交えてわかりやすく紹介。子どもの気持ちに寄り添いながらも、決して子ども扱いし過ぎない、“ウソのない本気の言葉”を伝えることにこだわったという。
 両親や祖父母からプレゼントされて読んだ子どもが、本書に描かれていたことについて家族で話し合い、コミュニケーションのきっかけとなることも。また大人にも刺さる文章のため、年齢、性別を問わない多くの読者に親しまれている。

 



『14歳の君へ どう考えどう生きるか』
(池田晶子/毎日新聞出版)

没後10年を経て読み継がれる「考え続ける」ことの大切さ

著者・池田晶子氏(毎日新聞出版)

毎日新聞出版が2006年に刊行した
池田晶子『14歳の君へ どう考えどう生きるか』は、
当時「毎日中学生新聞」に連載されたエッセイに、
書きおろしを加えた哲学書のロングセラーだ。

 当時すでに話題になっていた『14歳からの哲学』(トランスビュー刊)よりも、ものごとの考え方を「もう少し柔らかく」エッセイ風に書くというのが、連載のコンセプトだったという。
 単行本化の際、連載時のタイトル「中学生の君へ」を変更したのは、池田氏が「14歳」を特別な年齢と考えていたからだ。「14歳という年齢は発達段階において大きな意味があり、その前後では全く別の人間と言ってもいいほどの違いがある」と担当者に語っていたという。
 学校での「いじめ」が社会問題になりはじめた時期であり、いじめに苦しむ子どもに向けた力強いメッセージを冒頭に収録している。
 本書では「友愛」「恋愛」「幸福」「個性」など、16のテーマを扱うが、それに対する模範解答や問題解決の方法が書いてあるわけではない。ただひたすらに自分で考え続けることの大切さを、本書は教えてくれる。
 同社ではそのメッセージを池田氏のことを知らない読者にも届けようと、今年の夏にヨシタケシンスケ氏による全面帯に変更。昨年の2倍以上のペースで売れており、特に30、40代の女性、母親世代からの支持が厚いという。
 本書の発売直後2007年に、池田氏は46歳という若さで亡くなった。しかしその言葉は過去のものとなることなく、今でも読まれ続けている。
□四六判/192㌻/本体1143円


『折れない心を育てるいのちの授業』
ホスピス医師が若者に贈る人にやさしくなれる物語
(KADOKAWA/小澤竹俊)

 KADOKAWAが2019年8月に刊行した『折れない心を育てる いのちの授業』の著者、小澤竹俊氏は3000人以上を看取ったホスピス医だ。小澤氏は「ホスピスの現場で学んだことを伝えたい」という思いから、小中高生に向けた「いのちの授業」を600回以上も行ってきたという。
 本書は2人の女子中学生を通じて、悩みとの向き合い方、自己肯定感の育み方など、困難があっても歩み続けるために人生で大切なことを伝える物語だ。
 またホスピス医としての立場から、子どもたちに伝えたい「死」や「生」の考え方についても触れている。
 自分を認め、人にやさしくなれる…そんな思いが込められた1冊だ。
□四六判/160㌻/本体1000円

 


『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』
(齋藤孝/誠文堂新光社)

齋藤孝教授の真骨頂『君たちはどう生きるか』羽賀氏の漫画も収録

 誠文堂新光社が6月に刊行した齋藤孝『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』は、教育学の教授である、著者の真骨頂ともいえる人生指南書で、現在5刷で3万5000部を突破している。
 担当した編集者は本書を企画するにあたり、「活字の読み物に慣れていない若者読者にこそ、読んでほしい」という思いから、『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス刊)の羽賀翔一さんに装丁画を依頼。さらには各章末に羽賀さんの1ページ漫画も収録している。
 30~40代の子育て世代から好評を博しており、総ルビを振っていることから、親にすすめられて、子ども自らが読み進めるケースも多いという。
□B6判/224㌻/本体1300円