常連作家の作品や直木賞受賞作など、多彩なラインアップとなった本屋大賞ノミネート作品。
今回、作品への思いや作家とのエピソードについて、それぞれの担当編集者に寄稿いただいた。
『店長がバカすぎて』
(早見 和真/角川春樹事務所)

「書店を舞台に、書店員を主人公に、しかもコメディを書くのがホントにこわい」。連載開始前、早見さんがずっとおっしゃっていたのを覚えています。その恐怖を打破するように、早見さんはたくさんの書店を見て回り、取材して、本作を完成させました。
支えていたのは「小説家と書店員は向き合うのではなく、同じ方向を(つまりは読者を)向いているべきだ」という想いであったそうです。
本作が出版業界の大きな問題点と未来、働く意義や人生の意味など─純粋に、エンターテインメントとして読書を堪能した後に─深く考えさせられる物語であると、強く信じています。(原 知子)
□四六判/296㌻/本体1500円
『夏物語』
(川上 未映子/文藝春秋)
『夏物語』は芥川賞受賞作『乳と卵』の登場人物たちが織り成す物語です。第一部で川上さんは、『乳と卵』をまるごと、新たに語りなおしました。
第二部、「自分の子どもに会いたい」と願う夏子に、さまざまな人が思いを語ります。印象深いのは、生まれてこなければよかった、と思っている善百合子。出産は親たちの身勝手な賭けにすぎない、「いったい誰のための賭けなの?」という痛切な問いは、朝日新聞「折々のことば」でも紹介されました。
「読んでくださった皆さんと、今もずっと対話がつづいているような気持ちでいます」と川上さん。この物語を、息長く、多くの方にお届けしたい―担当者一同の願いです。(田中 光子)
□四六判/552㌻/本体1800円
『熱 源』
(川越 宗一/文藝春秋)
物語の舞台は19世紀の樺太(サハリン)、主人公はアイヌのヤヨマネクフ(山辺安之助)とポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキです。
川越さんは旅行で訪れた北海道で見たピウスツキの胸像に関心を持ち、『あいぬ物語』を書いた山辺との交流も知りました。デビュー前から二人の物語を読んでみたいと考えていたと伺っています。
南極まで登場し、世界大戦の終焉まで描かれます――こう説明すると、発売当初それに怯んでしまう方がいるのが悩みでした(笑)。が、今では書店員さんはもちろん、高校生から直木賞選考委員まで「スケールの大きさがすごい!」と話題沸騰。その熱をぜひ、体感してください。(川田 未穂)
□四六判/432㌻/本体1850円
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
(青柳 碧人/双葉社)
「どんでん返しをお願いします」私の依頼に対する青柳さんのお答えがこの本に収録されている「密室龍宮城」です。一読して吃驚しました。あの昔ばなしが、ミステリに大変容していたのです。
浦島太郎が亀を助けて龍宮城に行くまではみなさんご存じの通り。そのあとは、絶対に読んだことのない世界が広がります。魚が殺され……犯人(犯魚?)わからず……龍宮城には、魚たちの思惑が渦巻いていたのです。
作りこまれた龍宮城という名の密室を舞台に浦島太郎の推理はいかに。真面目に読むか笑って読むかはあなた次第。こんな本が読めて生きてて良かった!と必ず思うでしょう。何をかくそう、私もそうでした。昔ばなしをミステリで読み解く全5編の怪作を収録した短編集です。(秋元 英之)
□四六判/243㌻/本体1300円
『ムゲンのi』(上下)
(知念 実希人/双葉社)
「命を削り、魂を込めて書き上げた私の最高傑作」。本作を書き終えた知念さんはこう語りました。
医療サスペンス×ファンタジー超大作の誕生です。極彩色に描かれた夢幻の世界に酔いしれ、魂を揺さぶるどんでん返しに驚く。そして、奇跡のエンディングに涙するでしょう。web連載当時、知念さんは下巻の話をわずか2週間ほどで書き上げました。怒濤の勢いと神がかった展開に、私の魂は夢幻の世界に奪われ、震えながら原稿を読み進めました。
大ヒット中の「天久鷹央」シリーズに『仮面病棟』の映画化、本屋大賞3年連続ノミネート……知念ミステリーは、いま飛躍の時を迎えています。(森 広太)
□四六判/上巻349㌻・下巻364㌻/本体各1400円
『ライオンのおやつ』
(小川 糸/ポプラ社)
人生の最後に食べたい「おやつ」はなんですか?そう聞かれて即答できる人は意外と少ないのではないでしょうか。余命を告げられた主人公の雫が、残りの日々を過ごすことに決めた瀬戸内の島のホスピスでは、それを用意してくれるのです。
小川糸さんが「最後の食事」ではなく「おやつ」を選んだのは、とっさに答えにくい分、自分の人生の細部を思い返す時間になると考えたからだそうです。それはきっと小さな幸せの記憶を探すことにもなるだろうと。
人生最後の日々の話ですが、読んでいて心に満ちるのは、つらさや重苦しさではなく、生きることを愛おしむ気持ち。毎日を全力で大切にしたくなる物語です。(吉田元子)
□四六判/255㌻/本体1500円
『流浪の月』
(凪良 ゆう/東京創元社)
きっかけは、凪良ゆうさん初の非BL作品となった『神さまのビオトープ』でした。もとから凪良さんのお名前は、何かの拍子に存じ上げていたのです。 ちょっとした好奇心から手に取り読み終えて、矢も盾もたまらず新作のお願いをしようと決めました。と同時に、そこから一年かけてじっくりと、既刊四十三冊を読破してゆきました。どの作品にも唸らされる箇所がありました。そうして自分の手で世に送り出すことができた、凪良ゆうさん四十四冊目の著書が『流浪の月』です。
こんな素晴らしい書き手がいることを、まずは知ってもらいたい。そして、最初に僕が受けた衝撃と感動を、『流浪の月』を通して、皆様にも味わっていただきたいと願っています。(桂島 浩輔)
□四六判/314㌻/本体1500円
『線は、僕を描く』
(砥上 裕將/講談社)
両親を交通事故で亡くした主人公、青山霜介が、水墨画と出会い、戸惑いながらも魅了され、水墨画を通じて立ち直っていく姿を描いた、第59回メフィスト賞の受賞作。
□四六判/317㌻/本体1500円
『ノースライト』
(横山 秀夫/新潮社)
施主が望んだ新築の家を設計した一級建築士の青瀬。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の椅子だけが残されていた。『64』作家が描く、長編ミステリー。
□四六判/429㌻/本体1800円
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
(相沢 沙呼/講談社)
連続殺人鬼が人々を脅かす中、推理作家の香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢い、事件に立ち向かっていく。「このミステリーがすごい!2020年国内編」1位受賞作。
□四六判/384㌻/本体1700円