6月初旬に『ワイルドサイドをほっつき歩け』を刊行するブレイディみかこさん。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞したことは記憶に新しい。しかしブレイディさんの著作はそれだけではない。命を賭して時代と戦った女性の評伝、日本の労働者に焦点を当てたルポなど、『ぼくはイエロー…』だけではない、ブレイディみかこさんの魅力がつまった作品を紹介する。
『女たちのテロル』
(岩波書店)

困難な時代と闘った3人の女性
深い思索、優しさ、不屈の精神を描く
無戸籍、虐待、貧困という厳しい境遇に育つなか、体を通して思想を獲得し、大逆罪の咎(とが)で投じられた獄中で死を選んだ金子文子。英国で女性参政権を求めて激しく行動し、国王の競争馬の前に飛び込み最期を遂げた、エミリー・デイヴィソン。アイルランドの独立のため、イースター蜂起で銃を手に戦ったマーガレット・スキニダー。
100年前のこの3人の女性の足跡を交互に辿る、著者渾身の伝記エッセイ。熱く躍動する文体で迫る、困難な時代や社会にあってそう生きざるをえなかった彼女たちの深い思索と優しさ、そして不屈の精神は圧倒的だ。担当編集者は「100年後を生きる私たちに向けて、100年前の女性たちとブレイディさんの祈りが宿った一冊。今こそ、ぜひ読んでほしい」と述べる。
□四六判上製/262㌻/本体1800円
『THIS IS JAPAN』
(新潮社)
地べたの視点から浮き彫りにする中流意識に覆われた日本
本書は日本の労働問題を扱った作品で、労働者階級が反乱を起こす英国から、20年ぶりに日本に長期滞在をしたブレイディさんが、今の日本を「地べたからの目線」で見つめたルポルタージュ。日本で目にした、保育園での緊縮の光景、労働者が労働者に罵声を浴びせる争議の現場、貧困の底が抜け落ちた人権課題などを題材に、草の根の活動家たちを訪ね歩き、中流意識に覆われた「おとぎの国」日本をあぶり出す。本書の解説では、評論家で編集者の荻上チキさんが「ニュースを共有するジャーナリストや、概念を共有する評論家と異なり、著者は風景を共有する」と評す。
また担当編集者は「コロナ禍で経済が大きく揺らぐ今、多くの人に読んでもらいたい一冊」と話している。
□文庫判/288㌻/本体590円
『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)』
(筑摩書房)
新作の「おっさん」らも登場
パンクスピリットみなぎる幻のデビュー作
本書は2005年に刊行され、絶版であった単行本(碧天舎)に、約200ページにも及ぶ未収録エッセイや書き下ろしを大幅に加筆し、豪華増補版として復刊したブレイディさんの幻のデビュー作。
本書に出てくる「おっさん」たちの一部は、ブレイディさんの「連れ合い」や友人たちの話など、今回の新作『ワイルドサイドをほっつき歩け』にも登場。「前日談」とその「後日談」として、読み比べることができる。
絶版していた本作を、図書館を巡って運良く入手したという担当編集者。「デビュー作というのは本でも音楽でも、破天荒な勢いあふれる場合が多い。この本もパンクスピリットがみなぎり、圧倒される」とデビュー作復刊の思いを語る。
□文庫判/320㌻/本体780円
『子どもたちの階級闘争』
(みすず書房)
「底辺託児所」の子どもたち
英国の格差と分断を描く
「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった」。英国の地べたを肌感覚で知り、保育の現場から英国の格差と分断の情景を描き出す。
2008年、ブレイディさんが保育士として飛び込んだのは、「底辺託児所」とあだ名された、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。
貧しいながらも、混沌としたエネルギーに溢れる、その託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に、読者は心を揺さぶられる。
□四六判/296㌻/本体2400円