- ろうそくの灯に -

読書教育と本屋

 本屋という空間は、本に関わる全ての人たちが、本を通じて交流している。本を書く著者、本を作る出版社、本を流通させる販売会社、本を読む読者は、本屋という空間で、本という媒体を通じ交わってゆく。著者と出版社は、本という媒体を作り出すことができる。読者は、その媒体に触れることで、何かを調べたり、自身の中に様々な感情を作り出したり、視野と見聞を広める読書という行為で本に関わる。
 本に関わる人達において、絶対に欠かせないのが、本を作り出す著者と出版社、そして本を読む読者。言い換えると、この作り手と読み手の存在が本を支えているということになる。
 長年本屋に携わってきた僕は、本屋が作り手と読み手を繋ぐための存在になり得るために出来ることがないだろうか、という問いに対する答えを探し続けてきた。その答えは一つではなく、その本屋が置かれた地域性により、大きく役割が異なることは重々承知しているが、もしかしたらその答えは、本屋側からの発信ではない「町に本屋が必要である」という想いを醸成することにも通じるのではないか、という考えがあるからだ。その考えは、まりや書店を経営していた時も、さわや書店に勤務していた時も、全く変わらなかった。
 さわや書店時代、特に力を入れていたのが、小学校や中学校での読書教育への参画だった。若者の読書離れが叫ばれるようになり40年の時が流れ、現役世代の全員が読書離れ世代となり、その流れとともに教科書すら電子化が進む時代の中で、本と読書の意味や価値、さらには読書の豊かさに触れる機会の重要性が増してゆくだろうと思っている。
 先月、岩手県沿岸部の教育事務所からの依頼で、岩手県沿岸部の学校図書館の担当の先生たちの勉強会に参加してきた。さわや書店時代、商圏ではなかったが、何度も沿岸部に足を運び、読書推進のお手伝いをさせていただいたご縁が、今でも繋がっていることが何よりうれしかった。教育現場における読書教育について、貴重な意見をたくさん聞くことができた。
 ある先生が、『吾が住み処ここより外になし』という本を話題にしてくれた。岩手県の田野畑村の開拓保健婦だった岩見ヒサさんの自伝である。2010年に発売された本書は、2011年の東日本大震災以降、飛躍的に部数を伸ばした。本屋の店頭で、添えられていたPOPを見て、すぐに購入して読んだという。作中、たった6Pしか割かれていないが、これまで知りえなかった事実がそこに書かれていて、今までにない読書経験をした、と。それから、読書は本との出合いから始まるのかもしれないと考え、図書館でもいろいろためしているのだ、とお話されていた。本屋は、本を作り出す著者と出版社、そして本を読む読者に何ができるだろう。あらためて、その言葉が頭に浮かんだ瞬間だった。
 そして、あの時、あの瞬間に、あの言葉を添えたPOPを、『吾が住み処ここより外になし』に付したことは、間違っていなかったと思えた瞬間でもあった。