- 湯浅の眼 -

非日用品としての出版物

 小売業を考えていくとき、利益率と入店客数が軸となる。商圏に縛られる入店客数は言い換えればリピート率と言えるだろう。それゆえ、利益率とリピート率の高低で4つに分類できる。書店という小売は、かつては「利益率:低、リピート率:高」であった。だが、週刊誌に代表される「リピーター誘引要素」が厳しくなったがゆえに、「利益率:低、リピート率:低」の商売になっている。この「低・低」の商売は、ファストフードや100円ショップのように、チェーンストアとしての規模感が必要となる。それは、仕入価格を下げるということと、チェーンストアブランドイメージを形成し、ある種の「安定感」を消費者に与えることができる。いわば「金太郎あめ」であるがゆえの「安心感」である。
 書店業の場合も、仕入正味がナショナルチェーンであればあるほど有利なように、書店側の利益率は一定ではなく、よって取次子会社の形としてある種のチェーン化する流れというのは実に理にかなっている。
 しかしながら、それ以上に、出版業界は「リピーター」によって支えられていた部分が大きく、ここが崩れている昨今においては、「利益率を上げよう、率が難しくても額を上げよう」という動きへと向かっている。
 この動き自体は当然なのであるが、おそらく多くの出版業界関係者が勘違いしていることは、「出版物は日用品とは言えなくなった」という点である。娯楽としては、ほぼ無料のYouTubeがあり、学習においてもYouTubeやアプリが進出してきている。むしろアプリネイティブの学習者がここから増えてくるだろう。それが、「生活」に関連する100円ショップの商品や飲食店との大きな違いである。すなわち、「単品当たりの利益率/額」を挙げた瞬間に消費者はそこから逃げ出す、というところである。「生活上必要」とされる書籍は、教科書関連か、あるいは情操教育に関与する絵本ということになろう。
 もちろん、一定層、価格変動に「鈍感なファン」は存在する。それゆえ、まさしく「ファンベース」で収支が組み立てられる場合には「利益率/額の上昇」は可能であろう。よって、「ファン」をどのように形成するか、ということへと論点は向かうのであるが、それは、著者、販売者、そして出版社が中心となる。ここにおいて必要なことは「日常をストーリー化する」というブランド戦略となるが、それは他方で、炎上リスクを抱えた掛け金の高い戦略であり、果たして出版物の価格帯に見合う戦略といえるかは疑問なところである。