- 長岡義幸の街の本屋を見て歩く -

灯かりが照らす手作りの本屋

|本屋lighthouse 千葉県千葉市


 出版社のトランスビューを昨年、取材した際、アルバイトとして発送作業に勤しむ関口竜平さん(26歳)と四方山話をしていると、トランスビューのほかにときわ書房志津ステーションビル店(千葉・佐倉)でもバイトをしながら、千葉・幕張の住宅街のなかにある祖父の畑で書店を開こうとこつこつ小屋を建てているところだと聞いた。畑の中に自作の店舗というのが想像をかき立てられた。5月1日に、本屋lighthouse(ライトハウス)として開店したと伝え聞き、いったいどんな書店になったのか、興味津々出かけてみた。



手作り感満載の書店

 JR総武線幕張本郷駅から10数分、1キロメートル強の道のりを進むと、住宅地の一角に少し不格好な“小屋”の屋根が見えてきた。目指す本屋lighthouseだ。
 建物は一見、資材置き場かのように見える。なかに入ると、汗がしたたり落ちてきた。35度を超える真夏の昼間に出かけたのだけれど冷房はなく、最近はやりの手持ち用扇風機がいくつか天井から吊され、その風に当たって暑さをしのいだ。
 関口さんによると、10平米以下であれば建築確認の申請をする必要がなく、土地の用途変更の手続きもいらないので、その範囲内の建造物にしたのだという。資材費など建築にかかった費用は30万円前後で、地代はない。売り場面積は7平米ほどだ。その代わり、電源などを敷設する工事はできず、店内の照明も電池式のランタンを吊すことで対応していた。小屋の裏手に回ると、ほんとうに畑だった。ちょうどナスやトマト、ピーマンなどがいまを盛りと茂っていた。
 店内も手作り感が満載。ペンキで黒く塗られた壁に飾り棚風に書棚を据え付けていたり、一見すのこと見まがうような面出し用の棚があったり、関口さんが子ども時代に使っていたというシールがベタベタと貼ってある棚があったり。もちろんふつうの書棚もある。


自分が読みたい、売りたい本を品揃え

 品揃えはどうか。入り口近くには、「誰かの光になる」という含意の店名であるlighthouse(灯台)にちなんで、『灯台守の話』『おーい、こちら灯台』といった絵本や書籍が集められていた。その隣には出版業界本や書店本が並び、人文書やノンフィクション、趣味性の高そうなコミックスも。すのこ様の面出しの棚には、韓国・フェミニズム・日本を特集した『文藝』、関東大震災時の朝鮮人虐殺を否定する歴史修正主義者の言説を検証した『TRICK』、文化大革命を背景にした中国人作家のSF小説『三体』など、関口さんの思いが反映したのであろうタイトルが目に付いた。それとともに、コミック誌の『花とゆめ』と数冊のコミックスもあった。マンガ家の友人の作品が載っているという。

 例のシールの貼られた奥の棚には、児童書が集められていた。新刊とともに、友人からもらった絵本を置いて自由に読めるようにしてある。棚の前には小さな椅子もあり、座り読みOKだ。小学生の常連客はいまのところ近所の2人だけというものの、これからもっと人気が出てくる場所になりそうだ。
 在庫しているのは500〜700冊ほど。すべて陳列しているのではなく、タンスのような棚に保存してある本もある。一般の書店なら勝手にストック棚を開けられるのを嫌がるものだが、むしろ「開けてほしい棚」なのだそうだ。関口さんは「『開ける』という動作が入ることで本を見た時の感覚が違うような気がした」と意図を説明する。2度目に訪問したときには、はじめてやってきたという壮年の夫婦のお客がストック棚をしげしげと覗いていたのが印象的だった。
 選書は、自分が読みたい本とぜひ売りたい本を中心にする。近隣にはくまざわ書店があるので、棲み分けができると考えたからだ。基本的には「たとえベストセラーであっても3カ月で売れなくなってしまう本は置かず、賞味期限の長そうな本を1冊ずつ仕入れ」、原則返品なしで長く売っていくスタイルをベースにする。いわゆるヘイト本は扱わない。

いずれは本格的な店舗で書店専業に

 オープン後2カ月間は、金土の週2日の開店だった。7月から9月までは、暑い中お客も少ないだろうと週1回、金曜か土曜だけ店を開く。バイトを掛け持ちしているので、かなり忙しそうだ。週2回開店のときの1週間の仕事の流れを聞くと、月火の日中はトランスビューで品出しなど諸々の作業をこなし、水曜の午前中は仕入れ先である神田村取次の八木書店と弘正堂図書販売をまわり、水木の午後から夜まではときわ書房志津ステーションビル店で文庫担当として働き、金曜の日中にlighthouseを開店、その日の夕方から夜まではときわ書房、土曜の日中はlighthouse、日曜日は昼から夜までときわ書房とびっしりだ。ただ、関口さんは、アルバイトは時間が決まっているので苦ではないという。

 これまでの販売実績は小屋のみで200冊ほど。ほかにウェブストアで同人誌などを販売する。5月は小屋+ウェブで10万314円(89冊+雑貨2点)、6月は小屋5万9443円(56点)、ウェブ37万1744円(同人誌を中心に412点)、卸売11万2000円(同人誌を他の書店に売り掛けで販売)で計33万9830円、7月は小屋3万9874円(36点)、ウェブ6093円(9点)、卸売2万4750円となった。売り上げはそのまま仕入れに使い、在庫は徐々に増えているそうだ。

 いまのところ小商いふうではあるけれど、関口さんはいずれ本格的な店舗を建てて書店専業になろうと考えている。理想の本屋は東京・荻窪の「title」だそうだ。


・小屋の外観

本屋lighthouse 関口竜平さん(26歳)


 1993年、千葉市生まれ。法政大学文学部卒業、法政大学大学院修士課程修了。子ども時代はサッカー選手を目指すもけがで断念。大学時代は英語の教員を目指していた。大学院に進んだのは、「子どもが学校を楽しく送れるサポートをしたいと思ったが、それは教科を教えることに重きをおく教師という職では難しい」と思ったからだ。それとともに、学部時代、卒論を書き進むのが楽しく、モラトリアム期間の延長として読書に勤しみつつ、小説の『1984』をテーマにした修論に取り組むためだった。ヘイト本を憎むのも『1984』をはじめとする読書体験からだ。院生時代には文教堂市ヶ谷店でバイトもしていた。
 就職活動時には、子どものサポートを仕事にするなら本屋だと考えて将来の書店開業を見据えつつ、出版業界全体を見渡すことのできる取次を目指すことにした。
 希望が叶い、日本出版販売に入社。しかし、1カ月間の研修を終え、現場に配属された1カ月後に退社した。希望の職場ではなかったからだ。その後、学生時代から出入りしていたトランスビューでバイトをはじめ、ときわ書房でも書店業の経験を積んでいるところだ。


●所在地 :〒262-0032 千葉県千葉市花見川区幕張町1-1265-4(子守神社近くの畑のなか)
●電 話 :080-5497-8229
 (lighthouse@gmail.comでの連絡が確実)
●営業日・営業時間:基本的には金曜日10:00~16:00と土曜日10:00~18:00の週2回開店。これを原則に毎月カスタマイズ。夏期(9月まで)はおおむね金曜日か土曜日の週1日開店。10月からは開店時刻を12:00に変更予定。詳しくはサイトで確認のこと
●定休日: 不定
●サ イ ト: https://books-lighthouse.wixsite.com/shortstop