- 長岡義幸の街の本屋を見て歩く -

小さくても本格的な本屋

|H.A.Bookstore 東京都台東区

  「小屋BOOKS」以来、本人から店の様子を多少は聞いていたけれども、まだ足を運んだことのなかった松井祐輔さん(35歳)の運営する新刊書店「H.A.Bookstore(HAB)」を訪ねてみた。先行する「小屋BOOKS」という語感から抱いていたイメージとは異なり、こぢんまりとはしているものの、思っていた以上の楽しげで本格的な書店であった。翌日から「ALPS BOOK CAMP 2019」というイベントに出店するために作業中だった松井さんの迷惑も顧みず、ノートを取り出して詳しい話を聞くことにした。




蔵前のビル4階で営業するHAB

 HABは東京・蔵前のビルの4階で営業する。蔵前と言えば、かつて国技館があったことからお相撲さんの街とついつい連想してしまうものの、実際は玩具問屋街である。しかもHABの入居するビルの周囲には倉庫をリノベーションしたいまふうの建物が軒を連ね、一帯は街歩きに好個の場所でもあった。
 エレベーターのない小さなビルのそのまた小さな階段を上り、まもなくHABの扉にたどり着く直前の踊り場には、「出版社のデットストックを持ってきました」という説明文とともにサブカル系や人文系の書籍や文庫が並んでいた。あとで聞くと、八木書店で仕入れたバーゲンブックだという。ジャンルは絞っていない。仕入れ次第で商品は入れ替わっていくそうだ。
 なかに入ると、小さな部屋の三方をぐるりと書棚が囲み、中央には平台が置かれていた。特化したジャンルがあるわけではなく、文芸書や人文書、サブカル関連、暮らしや食の本、出版業界もの、ライフスタイル系の雑誌、個人やグループの発行するミニコミ誌など幅広い選書になっている。なかでもミニコミ誌ははじめて見るものばかり。松井さんから取引を依頼したものと、先方が持ち込んだものと半々ぐらいだという。これら店頭在庫は、全部で1800冊ほどになる。

週4日営業で収支はトントンに

「お客さんを想像しながら、長く売れそうな本と私が見て良さげな本を置いています。基準なんてないですよ。雑につくった本や楽につくったような本は置きません。そういう本は見ればわかりますよね」

 売り上げは月に15万円から20万円。ほかに松井さんが編集を手がけた『HAB 本と流通』『HAB 新潟』などの出版活動、他社の出版物の販売代行(取次業務)などの事業も並行し、全体としての収支はトントンになっているそうだ。店頭での最大のロングセラーは『HAB 本と流通』。小取次のツバメ出版流通を通じて全国の書店でも販売し、初版2000部、2刷800部に達しているという。
 月曜日から水曜日までは閉店し、木曜日と金曜日は夕方からの開店で、営業日は週4日しかない。売り場が遊んでいる時間がけっこうあるのではと心配すると、そのあたりも見越して物件を探したのだという。家賃は6万5000円と格安だ。
 平日の夕方に開店するようになったのは4カ月前から。いまのところ土日に来店客が集中し、1日あたり10人から30人ぐらいの客数になるそうだ。ちなみに、蔵前に店を開いたのは、当時働いていた筑摩書房に近かったからだった。「蔵前は落ち着いた街ですが、土日は街歩きで遊びに来る人も多い。ここなら土日だけ開けても成立すると考えました」と言う。
 実は、松井さんはいまも二足のわらじを履く。平日は東京・下北沢の本屋B&Bも運営するnumabooks(ヌマブックス)で働き、同社の刊行する書籍の営業や出荷作業、企画、執筆、総務・経理などに携わる。木曜日と金曜日は早めにヌマブックスの事務所を抜けて店を開け、テレワーク的にヌマブックスの仕事も同時進行でこなしているという。
 「HABの仕事がヌマブックスの仕事につながったり、その逆もあったり。同じ本の仕事なのでクロスオーバーすることが多いですね」

仕入れはトーハン経由と、出版社との直取引

 仕入れルートは主にふたつある。ひとつはトーハンだ。HABを本屋B&Bの支店扱いにしてもらい、品物は本屋B&Bで受け取るかたちになる。B&Bには数%の手数料を払っているそうだ。松井さんによると、もとの書店(本店)が了解してフランチャイズのようなかたちで取次口座をつくるのは珍しいことではないという。本来、取次と直接、口座を開けば担保や保証金を差し出すべきところ、B&Bに肩代わりしてもらっている関係だとも説明した。これには得心した。

 もうひとつの仕入れ先はミニコミの発行者や出版社との直取引で、それぞれの仕入比率は半々ほど。直取引の商品の多くは買切で仕入れる。そのほうが掛率も低いからだ。ただ、松井さんはトーハンルートの商品でもほとんど返品はしないという方針を貫く。

 「長い目でていねいに売れば、たいていは売り切ることができます。そもそも売り上げが少ないので発注は3~5冊、多くて10冊くらい。初回発注の目安は半年で売れそうな数でしょうか。販売期間が長いんです」
 松井さんは「必要だと思ったことをやっていったらこうなっただけです。奇抜なことは何もしていません。勉強しながらサイズを小さくして書店をはじめただけで、新しいことをやっているわけではないんです」と語る。その“集大成”をぜひ見に行ってほしい。




H.A.Bookstore(HAB)松井祐輔さん(35歳)

 1984年生まれ。愛知県春日井市出身。大学卒業後、取次の太洋社に就職。6年間勤め、2013年に退職。14年3月、雑誌『HAB』を創刊。同年4月、2坪の本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門のコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープンし、2015年9月に閉店した。
 その後、しばらくの準備期間を置いて2015年11月、H.A.Bookstoreをオープン。この間、筑摩書房を経て、現在はヌマブックスに在職中。
 「太洋社は途中で辞めましたが、取次の仕事は好きだったので、それまで培った知識と経験で何かできればと思っていました。いまは出版にかかわる仕事なら取次、書店、出版、編集、ライティングと、印刷以外はすべて経験しています。デザインは付け焼き刃でできなくはないけど、いまはデザイナーとしっかりいいものをつくりたいです。印刷の勉強もしたいですね」
 松井さんは、今後の目標をこう語っていた。




●所在地:〒111-0051 東京都台東区蔵前4-20-10 宮内ビル4階
●営業時間:毎週木・金17:00~21:00(木・金が祝日の場合は12:00~18:00)/ 土・日12:00~18:00
●定休日:月~水、第3日曜日
●サイト:https://www.habookstore.com/