2019年は、ここ10数年間のうちでもっとも多く本を読んだ一年だった。皮肉にも、書店の現場を離れた方が本を読む時間を確保できたことになる。この一年は、自身の本の読み方と向き合った一年でもあった。書店員時代は、「誰かの本との出合いをどの様に作るか」だけに主眼を置いて本を読んできた。それは、5W1Hというフィルターをかけて本を読んできたと言えるのかもしれない。
Who(だれに向けて)・When(いつどのタイミングで)・Where(どの売場で)・What(どんな言葉を添えて)・Why(なぜか)・How(どのような手法で)というフィルターを通じて本を読む作業は、僕が売り場づくりをする上でもっとも大切な要素だった。本には様々な旬がある。発売日もその一つだ。しかし、発売日は著者と出版社の事情で決めた旬であり、本そのものの旬とは必ずしも一致しない。
書籍の売り上げと書店数は年々減少しているが、書籍の発行点数は年々増え続け、新刊が本屋に入荷し、売り場に置かれる時間はどんどん短くなっている。お客様の本屋に足を運ぶ頻度が減っている現状下、一冊の本と店頭で出合うことは奇跡に近いのではないか、と感じている。だからこそ、5W1Hというフィルターをかけて本を読むことで、その本の旬を理解し、もっとも必要とされているタイミングで展開するかを考え続けてきた。
本屋は、まったく本を読まない人でも勤めることができる。効率的な売り場を作り出すには、本を読んでいない人の方が向いているのかもしれない。しかし、本を読んできた人にしか作れない売り場もある。近年、後者はコスト的に合わないということで切り捨てられてきた。僕は、どんなにシステム化が進んだとしても、そこに書店員の蓄えてきた経験と知識による手を加えることで店の個性をお客さまに伝えることが大切だと考えている。
本を読んできた人にしか作れない売り場を維持するためにできることはないだろうか。本屋離れが進む今こそ、書店員の蓄えてきた経験と知識をコスト的に合わないということで切り捨てられることのない未来が必要だと感じている。
先日、本屋大賞に一次投票をするため、今年読んだ本の感想を書いたファイルを読み返していた。Who(だれに向けて)・When(いつどのタイミングで)・Where(どの売場で)・What(どんな言葉を添えて)・Why(なぜか)・How(どのような手法で)が添えられたメモを眺めつつ、それを売り場で活用できない悔しさが込み上げてきた。
誰かのための読書ではなく、自分のために本を読んでみようと心がけてきた一年だったが、結局は書店員時代と同じ読み方しかできない自分がいた。まあ、それも僕の読書の愉しみなのだろう。
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田口幹人 氏 --
197 3年、岩手県西和賀町(IE· 湯田町)の本屋の息子として生まれる。
幼少時代から店頭に立ち、読みたい本を読み、小学生の頃にはレジ打ちや配達などもしていた。
古本屋に入り浸る学生時代の後、盛岡の第一書店に就職。
5年半の勤務を経て、実家のまりや害店を継ぐ。
7年間の苦闘の末、店を閉じ、さわや書店に再就職、2019年3月さわや書店を退社。
現在、出版流通会社に勤務。