- ろうそくの灯に -

本屋の原点

 5月3日、静岡放送で「SBSスペシャル 本の伝道師」というドキュメンタリー番組が放送された。静岡県内でしか放送されなかったこともあり、リアルタイムで見ることは叶わなかったが、録画したものを貸してもらい見ることができた。
 静岡放送のディレクターが、半年以上に渡り密着取材をしたのは、戸田書店掛川西郷店の店長であり、「走る本屋さん」高久書店の店長でもある高木久直さんだ。静岡で約20年間にわたり戸田書店の店長を務める高木さんは、常に顧客や従業員との対話を積み重ね、他店とは異なる品揃えでお客様の支持を集めてきた。

 高木さんの店は、「書店は人類文化の縮図ではないか?」という考えのもと、「他がやらない、じゃあウチはやろうか」という柔軟さを武器に、本と関連する商品を組み合わせた独自性のある品揃えと独自の情報発信で注目されてきた。
 以前、その独自性のある品揃えを一目見たくなり、戸田書店掛川西郷店にうかがったことがある。その際、品揃え以上に感動したのが、従業員の皆さんの働き方だった。お客様との距離の近さ、お客様への思いやりが伝わる接客、そして何より売場のあちこちから伝わる地域の中にある本屋としての存在感だった。

 ここまで想いを徹底して売場で表現できているのは、スタッフとの信頼関係がしっかりと構築されているからなのだろう。スタッフの皆さんが、あんなにも活き活きと楽しそうに働く本屋を久しぶりに見ることができたことが、ただただ嬉しかった。
 あいにく、高木さんは不在のためにお会いすることができなかったのだが、知を編み、血を継ぎ、地を耕す「まちの本屋」の姿とは、このような店のことなのだという想いを抱いて店を後にしたことを覚えている。

 高木さんの活動は店の枠を超え、県内の様々な書店員や図書館員等と連携し「静岡書店大賞」の立ち上げと運営を行い、さらには休日を活用し、自前のクルマを改造した新刊書店「『走る本屋さん』高久書店」の巡回販売や無人古書販売所の運営など多岐にわたっている。まさに本業本屋、副業も本屋である。
 地域の読者に本を届けるためにできることはまだまだたくさんある。暮らしの中に本のある生活の豊かさを知ってもらうこともまた、まちの本屋の仕事なのかもしれない。
 混迷が続く本屋業界が忘れてしまっていた大切なことが、「SBSスペシャル本の伝道師」の中のたくさん詰まっていた。機会があれば、ぜひご覧いただきたい。 まずは、ここから始めよう。